東京高等裁判所 昭和31年(う)2096号・昭31年(う)2097号 判決
被告人 アバゾーン製薬株式会社 外二名
〔抄 録〕
被告人斎藤の弁護人M同A連名の控訴趣意第一点について。
証拠調が終つた後、検察官は事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならないことは刑事訴訟法第二百九十三条第一項の定めるところであり、原審第十八回公判廷において検察官が「本件公訴事実はその証明が十分であるから相当法条適用のうえ被告人斎藤を懲役二年に処せられるを相当と思料する」と陳述していることは検察官の法律適用についての意見としてなんら欠けるところはなく、論旨はかかる場合に求刑をなすことは憲法第七十六条第三項、第九十六条に違反すると主張するけれども、刑罰法令は罪刑法定主義に則り、予め一定の犯罪構成要件とこれに科すべき刑罰の種類及び分量とを抽象的に規定したものであるから具体的にこれが適用実現を審理する公判手続において、その適用実現を請求する検察官は、単に抽象的な犯罪構成要件に該当する具体的な犯罪事実の存否に関する意見のみならず、該事実にして存在する限りこれに相当する法条を指摘し且つ該事実に妥当する具体的刑罰の種類及び分量に関する意見をも陳述するのが当然であつて、蓋しかかる具体的な刑罰に関する意見がすなわち法律の適用についての意見に属するものであるからである。そして訴訟法はひとり攻撃側に立つ検察官に対してのみならず防禦側にある被告人及び弁護人に対してもまた同一点について意見を陳述することができるものと規定しているのである(刑事訴訟法第二百九十三条第二項参照)。かくて裁判官は公判審理において事実及び適用法条についてのみならず、具体的刑罰の種類及び分量についても当事者双方の忌憚なき意見をききその良心に従い独立して公平に職権を行うもので毫も当事者一方のみの意見に拘束されるものではない。
従つて原審における検察官の求刑は正当であつてなんら憲法に違反するところはないから論旨は到底採用できない。
(中村光 脇田 鈴木)